スキマビジネスの雄




僕がバイクに乗り始めて日が浅い10代の終盤〜20代前半。
将来就く職業について大きな夢を持っていたころ。


僕はバイクに乗る仕事に就きたいとずっと願っていました。
バイクを手足として使う仕事って、どんなものがあるのか真剣に考えた時期もありました。


当時、思い浮かんだ職業として、

郵便配達、新聞配達、白バイ、レーサー、バイクジャーナリスト……。


車を運転する仕事ならたくさん思い浮かぶのですが、バイクとなると、その幅が狭いことを思い知らされます。
しかも、両極端ですし。
それだけバイクの趣味性が強いってことですよね。



そのなかで、本当にバイクが好きな方なら、一度くらいはあこがれたかもしれない、あの仕事に思いを寄せていました。


そう、バイク便です。


バイクに荷箱をくくりつけ、渋滞する街中をさっそうと走り、
書類などを顧客から顧客へ直接に迅速にお届けする彼ら。




郵便や宅配便よりうんと早く、バイクの機動力を存分に発揮するその姿が、
まだまだヘナチョコバイク乗りだった僕には、手が届くなかで最高のバイク乗りとして映っていました。



ある作家が、彼らバイク便を「隙間ビジネスの雄(ゆう)と呼んでいたのも納得がいきます。
まさしく一分一秒を争う都会でこそ生きてくる仕事だからです。
いまや、都会におけるバイク便は なくてはならない存在になっています。
世の中、FAXとメールですべて事が足りるわけじゃないんですね。


結局バイク便の仕事に就きはしませんでしたが、就職した後も彼らを街中で見かけると、羨ましく思ったものでした。


しかし、見てるのと実際にするのとでは全然違うのが現実。


彼らの仕事振りは、バブルのころは稼ぎがよかったといいますが、今では馬車馬のように働いても、
それに似合う金が入るわけではなく、割が合わなくなっているようです。


バイク便は普通に会社に雇われている方もいますが、
個人事業主(個人タクシーなどと同じ)で、会社とは仕事をもらう契約をしているだけ
ってところも多いみたいです。


そのために、保険やガソリン代、消耗品費なども全部自腹を切ることになり、
手取りはさらに下がります。もちろんバイクも自前。
個人事業主は労災保険に加入できない(共済組合を結成すれば別)ので事故や怪我をしても、やっぱり自腹。
しかも仕事が出来ないので収入が途絶えて転落の道を…。


↑とは言うものの、
【1】時間的・場所的な拘束を受け、仕事の依頼を拒否できない
【2】業務のやり方に指揮監督が行われている
【3】勤務日、勤務時間が指定され、出勤簿で管理されている


など、事実上会社に拘束されていますし、社員扱いにすべきだと、2007(平成19)年9月27日に厚生労働省が通達を出しています。


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社バイ(バイク便会社所有のバイク)だと使われているバイクは
CB400SFとか、ホーネットとか、JADEとか、VTZ250とか、カブとか
実用性第一のものばかり(当たり前か)。


デカいバイクだと不経済ですし、かといって大型スクーターを使うと小回りが利きにくく、耐久性や整備性も難ありということで、
必然的に車種が限られてきます。


現在のビッグバイクブームで、バイク便におあつらえ向きのミドルクラスの車種が減ってきているので、
さらに車種選択の余地がなさそうです。


上記のJADE・VTZ250って、1990年代初頭のモデルでしょ?
それほど現行モデルのバイクは「使えない」ってこと?



雨でも灼熱の炎天下でも、真冬の凍てつく中もバイクで走らなくてはならない。

稼ぎたければ一つでも多く仕事をこなす必要があるから、より速く走らなくてはいけなくなります。
バイクなだけにリスクが高くなります。
すごく過酷やん。長く続けられる仕事とは到底思えない…。


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とどめを刺すような新聞記事が飛び込んできました。
バイク便会社が、運転手(「ライダー」とは言わないらしい)にスピード違反を常態的にさせていたとして、
道路交通法違反(速度超過違反の下命・容認)で社長が逮捕されたというものです。


内容は、スピード違反で検挙されたバイク便運転手ら4人が
「神戸から大阪まで1時間以内に運べといわれた」などと供述。
高速を使わないため、通常は1時間半かかることから、
スピード違反をしないと指定時間に間に合わない配達を指示
した疑いです。



この文章、おかしいと感じませんか?

なんで高速を使わへんの?



…推測するに、高速代も自腹のため、金がもったいないから下道を飛ばしてるのではないでしょうか。


急がせるなら、荷主から余計に金を取って高速を使わせろよ…って思うのですが、
それは素人考えであって、そんなことで運賃を吊り上げたら顧客が離れるから、値上げはできないんですよね。
で、結局末端のバイク乗りが悲鳴を上げる、と。


このスピード違反で検挙された国道43号線は、片側4車線もありながら、
交通量増大にからむ公害訴訟の加減で、制限速度が40km/hという時代錯誤な道路です。
検挙された4人のうちの一人は、たかだか58km/hで走って捕まってるんですよね。



やっぱりおかしいわ、これ。
交通社会の歯車がかみ合ってないから、こういう事態になるんでしょうが。
彼らに同情しますよ。


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たまにバイク便の方が休憩されてるのを見かけます。
排気ガスにまみれて色がくすんだバイクジャケットが 百戦錬磨を感じさせますが、
その背中は総じてくたびれている雰囲気を受けます。
また、その休憩されてる場所が、道端やコンビニ、よくてもハンバーガショップですので、
くたびれ具合が余計に増しているように思います。


…やっぱりバイクは趣味のレベルで留めておくのが一番いいのかなと、
憧れに到達できなかった悔しさはあるけれど、自分を納得させておきました。


参考資料:
毎日新聞2005年1月26日付夕刊
京都新聞2005年1月26日付夕刊
毎日新聞2007年9月28日付朝刊