古来の果物の味を



僕の初バイトは、大学生になる春に 同級生の「勝」が紹介してくれた対面販売の果物屋でした。
よく大学のツレが、店の名前は「八百八」ならぬ「くだ八」やろ?とおちょくってくれましたわ。



そこで学んだことは数知れず。金を稼ぐことの喜びと難しさが常に同居していました。
初めて乗ったバイク・メイト80で80km/hも出して暴走したことや、
荷台に載せたビワを車通りの多い道にぶち撒けたこと、
夏の暑い日にしょっちゅう勝手にウォークインの冷蔵庫で涼んでいたのはいい思い出(笑)。



もっとも大きな収穫は、いわずもがな、果物に詳しくなったことですね。

年中あるバナナをはじめ、そのときどきの季節を感じさせる果物にいつも囲まれていました。

春になれば、豊の香(とよのか)やレッドパールなどのイチゴ
夏になれば、スイカアムスメロンアンデスメロン巨峰デラウェア白鳳をはじめとする桃、甘夏みかん
秋になれば、つがるふじ王林ジョナゴールドなどのリンゴ、幸水豊水二十世紀などの梨
冬になれば、キンカン有田みかん新堂みかん



…当時の店内レイアウトが次々によみがえります。



そのなかで、ごくごくわずかな期間しか店頭に並ばない謎の果物がありました。
楕円形でつやつやした手触りの鮮やかな黄色の皮に、ほのかな香りとずっしりとした重み。



店の大将曰く「国産のメロンやで」と称されるこれ↓






マクワといいます。
正式名称マクワウリ、かつてニポンで普通に食べられていた果物です。
僕の両親が「懐かしいな」と言うくらいですので、僕たちの世代ですら知らないのは当然でしょう。
通称「マッカ」。当時「甘い食べ物」の代表だったそうです。



それが表舞台から姿を消したのはメロンの登場でした。
段違いの甘さを持つメロンは、マクワをあっけなく場外に追いやってしまいます。
生産量も激減。現在生産されているのはごくわずかで、なかなか手に入らないらしいです。
もっとも、いまではせいぜいお盆のお供え用に使われるくらいで、「くだ八」でも同様でした。
その余りをバラで店先に並べていたようです。
いまだにここ以外でお目にかかったことがありません。



僕はメロン自体は好きですが、味がどうも…甘すぎるんです。
いや、後に残る べたべたした甘ったるさ、が適当な表現か。



ニポン古来の果物は外国原産のそれに比べると甘さが控えめの傾向があります。
マクワもそうらしいことは知っていました。けれど、バイト君時代には興味はあれどついぞ食べることはありませんでした。



去年の夏に、ふと思い出して食べてみたくなり「くだ八」に行きました。
そこにはあの時と変わらずマクワが売っていましたので買い、初めて食べました。
食べ方はメロンと一緒。切ってみると、薄黄色の果肉にやさしい香りがしっかり主張してきます。


味ですか?すごくさっぱりとしていますね。わずかな甘さにしっかりとした歯ごたえ
ま、いまどきの甘い果物に慣れてる人には物足りない味かもしれません。が、これがいいんやわ。


今年もお盆が近づいたら「くだ八」に買いに行きたいな。


(2007.5.7)