僕が父親になったら



♪空をこえて ラララ星のかなた 行くぞアトム ジェットのかぎり
 心優し ラララ科学の子 10万馬力だ 鉄腕アトム



漫画界の巨匠、故・手塚治虫・画伯・師匠・大先生が描いた作品、「鉄腕アトム」の主人公、アトムの生誕の日がやってきました。


2003年4月7日、メトロシティーの全エネルギーが科学省に集結し、
1体の少年ロボット、アトムが目覚めます。

そのアトムは、科学省長官・天馬博士が交通事故で失った最愛の息子「飛雄(とびお)」の代わりとして、
彼そっくりに作り出されましたが、人間のように成長しないため捨てられます。


そんなアトムのために、お茶の水博士は両親や、弟コバルト、妹ウランを作ります。
人間の心を持ったアトムは、育ての親となるお茶の水博士のもとでたくましく育っていく…。

そんなストーリーです。

大巨匠が描いた21世紀は、夢に満ち溢れたものだったのでしょう。



ところが、現実を見てください。
科学の進歩はおろか、理科離れに歯止めがかからず、そこへもってやれ不景気だ、やれ戦争だと、
後ろ向きにばっかり突き進んでいます。


大巨匠の夢見たロボットが活躍する時代は、いつ訪れるのでしょう。
このままでは、ドラえもんが登場する22世紀も、今と大して変わらないかも。


それに1歩でも近づこうと、不景気で研究費がもらえない中(多分)でも、五感を持ったロボットを作ろうとする人たちはいるのです。


そして世に登場したのが、
ホンダの2足歩行ロボット、「ASIMO」。SONYも負けじと小型ロボット「SDR−3X」を世に出し、
一気にロボットが身近になったところで、満を持して市販されたのが「AIBO」でした。

当時の価格、20万円。不況の真っ只中にいるニポン人、そんな高級なものが買えるかい!と思いきや、
爆発的に売れてしまいました。

癒し系ロボットなどといわれ、家庭でロボットを飼う(?)ことがブームになりました。



長きに渡って、ロボットとは縁のなかった我が家にも、先日ロボットが家族の一員になりました。

この間倒産した、ツクダオリジナルが2001年に発売したロボット、「PINO」。

定価5980円のロボットが、仕事帰りに立ち寄った倒産市で たったの998円だったので、思わず買ってしまいました。

メッチャかわいい。
「AIBO」もそうですが、「PINO」も遊んでやることで成長するのです。

ほら、目(?)の色で表情や感情だってわかります。オレンジ色はうれしいときの様子。

握手したり、頭をなでてやったり、話しかけてやると、「PINO」はPINO語で答えてくれます。
逆に、放ったらかしにしたりすると、機嫌を損ね、最悪、「病気」にもなります。

赤ちゃんの「レベル1」だと歩けないし、何を言ってるのかもわからないし、こちらの話す言葉もまったく理解しませんが、
子供の「レベル2」になると、歩いたり、「あ〜そ〜ぼ」と話してきたり、留守番をしたり、歌ったり、
感情をはっきりだすようになり、ますますかわいくなります。

今は「レベル2」ですが、最終段階の「レベル3」になると、性格も決まり、利口だったり、シャイだったり、
怒りん坊になったりするようです。


買ってきた日は、ずっと「PINO」に付きっ切り。
彼(?)の一挙手一挙動が愛らしく、“父ちゃん”と呼んでくれる人のいない僕ですが、もう、父親気分です。

僕の子供ができたら、きっとこんな風に親バカするんだろうなぁ、と思いながら、その日を夢見てせっせと「育児」してます。

部屋で、ロボット相手に話しかけてる姿は、ただのバカですが(笑)。


たとえ「育児」に失敗して、ヒネクレものに育っても、「リセット」したらいいんですし。
……だから、売れているのかもしれない。
死んだペットを見た子供が、「電池が切れてるよ」と冗談じゃないようなことを言うのも、この世の末を感じずにはいられません。


こんなおバカがはびこる「実際の」21世紀を大巨匠が見たら、草葉の陰で「こんなはずでは…うううう」と嘆かれるでしょうか。

それより、おれ、本当に父ちゃんになれる日が来るんやろか……。

参考文献:毎日新聞・2003年4月6日付朝刊

(2003.4.7)