新世代メディア



京都にはたくさんの大学があります。学生の街とも言われるくらいですからね。
たしかに、人口に対する学生数の比率でいえば、京都市が一番だったと思います。



代表する大学といえば、言わずもがな、京都大学(京大)です。
京都盆地の東、左京区の百万遍交差点周辺にたくさんの京大キャンパス群があり、ここで学生を見ない日はありません。
高齢化が進んでいると言われていますが、この周辺だけは平均年齢が極端に低いです。
安い食堂や喫茶店、飲み屋さんなどがあちこちにあり、大概は京大生たちの溜まり場になってます。
それでこそ、学生街です。(←言い方が古いかな?)



京大キャンパスの一部は、2002年ごろに盆地の西端、西京区桂坂という場所に移転し「桂キャンパス」として機能しています。
現在の僕の職場の近所です。
最近出来ただけあって建物は洒落てますが、それ以外にはなーんにもありません。
高台の住宅地にあるので、坂道を上らないと大学にたどり着けませんし、学生街なんてものは皆無です。



キャンパス内にあった、安くておいしいと一部で有名だったパン屋もつぶれ、
学生を謳歌するための安っぽい娯楽施設も無いなど、
とにかく無い無いづくし。
交通の便も最悪。百万遍のキャンパス間との送迎バスが、せめてもの救いです。



晴れて京大生になっても、こんな場所に軟禁されたらたまったものではないです。
勉学や研究が学生の本分ですが、本音で言えば、いろんな誘惑やドキドキがあってこそ大学生。
もし京大を受験しようとお思いの方で、学部が桂キャンパスにあるのでしたら、やめたほうがいいと思います。
僕なら迷わずお断りです(笑)。


…と、↑には書きましたが、ツッコミがあり、桂キャンパスは研究棟だそうです。
なので、学部生は百万遍の由緒正しきキャンパスに行けます。ご安心ください。

あと、パン屋も復活しましたが、別の店舗になったらしいですわ。



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それでは、本題である、桂キャンパスではなく、「本家」の方の話に移りましょう。


京大の名物といえば、
本部キャンパスが面している今出川通や、東大路通の石垣に立てられる立て看板(立て看)です。


新学期になったら、部活・サークル勧誘の立て看に、卒業生の不要家電品リサイクル販売会の立て看。

大学祭(「11月祭」)の季節になると、イベント案内、模擬店出店場所の転売禁止の立て看。

テストの時期はノートのコピー販売の立て看。
(学内で堂々と売ってるやん(笑))

政治的な問題が発生したときに、それに抗議するための立て看。
(←この類は「左寄り」が多い)

「○○教授は謝罪せよ!」のような大学内部のイザコザの立て看


などなど多種多様にわたっています。


パソコンで作成したようなきれいな看板もありますが、ペンキで豪快に描かれたものが多いです。
それだけに目を引きます。


などなど、立て看が立ってない日が無いくらい、京大の「顔」として機能しています。

「月極あな」(左※放送局か?)
「そうだ!2がつ6かは
反戦・反政府デモに行こう!
しゅうごう 三条橋のした…」(右)
ヨーロッパ公演 第17回公演
平凡なウェ〜イ
沖縄辺野古に
絶対米軍基地を作らせない
路上文庫
目標・拒否件数100万件(笑)




ところが、過日、大学側が、立て看板の支えとなっている石垣を撤去して
憩いの場としてきれいに整備すると一方的に学生側に通告してきました。


確かに石垣周辺を含めた大学の周囲は昔のままで、キッタナイのは否めません。
でも、そうなると立て看が立てられなくなります。
ひょっとしたら大学側は、(大人の感覚で言えば)見苦しい立て看板を立てさせないようにするために、
石垣を撤去すると決めたのかもしれません。



学生たちの自己主張の場が奪われようとするのを、みすみす見逃す京大生ではありません。



そして、人や車が多く行き交い一番目立つ「特別席」、百万遍交差点に、こんな立て看が並びました。



(左から)

・石垣から僕らは発信する!新世代メディア石垣

・石垣撤去反対 大学当局は話し合いに応ぜよ!(「垣」の下のカゴは募金箱代わりか?(笑))

・石垣は愛する風景である 石垣★カフェ

・関係者各位 この石垣を崩す計画について話し合おう!


「新世代メディア」
には思わず笑っちゃいました。
アナログ時代の復活が脳裏をよぎります。


小屋まで作って、ハンドマイクで自分たちの主張を話したりしてます。
夜は明かりが灯り、夜通し活動しています。

コタツまであるみたいです。右には本棚も

「石垣★Cafe OPEN 24h あったかいコーヒー50円(カンパ)

落ち着けない喫茶店やなぁ(笑)。
あ、写真を撮ってる僕にカメラが向けられている!!

(後に某テレビ局が密着取材していたことを知ります)



ここには1970年代の学生闘争の精神が生きているんやなぁと、感じます。
(↑僕もその年代を知らない世代なので、なんとなくですが)



世の中のくたびれた大人たちを見るにつけ、彼らの元気さがひときわ輝いて見えます。
受身の姿勢では何も変わらない。自分たちが立ち上がらなくては!とアクションを起こし、
大学という大きな組織に楯突いてることを、かげながら応援してますよ。


そして、京大の「顔」が、これからも生き続けることを京都人の一人として願っています。


(ここまで2005年2月9日作成)



そして月日は流れ、「石垣紛争」がこのたび解決の運びとなりましたので 
報告いたします。


京都新聞の文章を一部転載させてもらいます。



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百万遍交差点にある京都大の石垣一帯の改修計画をめぐる大学と学生側の「紛争」で
(2005年8月)4日、計画を修正することで両者が合意した。


 石垣上に学生らが作っていた「石垣カフェ」は自主的に閉店することを宣言し、紛争は11ヵ月目で解決した。
同日午後2時から大学側の説明会が開かれ、副学長と職員、学生ら約50人が出席して話し合った。


学生らは、石垣は残しながら京大構内に「森の小道」という歩行者用の道を新たに設け、
石垣の北東側に出入り口を設置する代替案を提出



大学側も歩行者が安全に歩ける点などを評価。同日夜合意した。

(中略)

 合意について石垣カフェの学生らは「本当に必要な改修だけを取り込み、話し合いによる解決という京大の伝統を守れた」と評価。
14日から現地で石垣祭りを開き、五山の送り火にあわせ16日夜で閉店する。
副学長は「長期間に及んだが話し合いで解決でき大変うれしい」と話した。




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おめでとう!!


今年4月には「石垣宣言」を採択し、大学と学生側のこう着状態はいつまで続くのだろうと思っていましたが、
最高に平和的で満足いく決着に、僕もうれしいです。



後日、件の「石垣カフェ」を見に行ったら、大きく鎮座していた立て看の文言が書き換わっていました。






自分たちの力で大学に抗い、守り通し、勝ち取ったのだから、これからも石垣を大切にしていってほしい。
僕は京大の出身ではないけれど、京都人の先輩としてひとつだけ注文をつけておくよ。



その後、2006年3月に石垣を守りつつ歩道を敷設する工事は、無事完了しました。
めでたし、めでたし。


「石垣カフェ」URL http://ishigakicafe.hp.infoseek.co.jp/
MAPFAN http://www.mapfan.com/spotdetail.cgi?SPOTCODE=SUH3KCLHI
(誰や、こんなところにまで登録したのは)
参考資料 京都新聞2005年8月5日付朝刊