環境に優しいバイクを目指して
さて、バイクのカタログ(特に原付)を頻繁に見ている方なら、3年程前から、ある項目の変化に気付いたと思います。
「エンジンの出力の単位が、馬力からkW(キロワット)、
トルクの単位が、kg・m から N・m(ニュートン・メートル)に変わったことやな」
それもありますが、ここで書こうとしているのは、それではありません。
単位が変わったのは、世界中で使われている ばらばらの単位ではなく、
国際的に決められた単位(SI)に統一しようということで、それにあわせただけなんです。
ま、確かに分かりにくくなりましたね。
100馬力→73.5kWになったり、10kg・m→98N・mだったり…。
こんなややこしいことするなら、アメリカでしつこく使ってる「インチ(2.54cm)」や「マイル(1609m)」みたいなものを
先に廃止させろよって思いませんか?大国の驕りですよね。
難しい余談になってしまった。ここからが本題ね。
変化したのは、バイクの出力です。
正確には、軒並みパワーダウンしているんです。
数年前のバイクのカタログをお持ちなら、今のものと見比べて欲しいのですが。
たとえば、
JOG−ZR(ヤマハ) | 7.2PS(1998年)→6.6PS |
LEAD50(ホンダ) | 6.4PS(1997年)→5.9PS |
スーパーカブ50(ホンダ) | 4.5PS(1998年)→3.9PS |
アドレスV100(スズキ) | 9.0PS(1998年)→8.8PS |
排気量の小さいバイクだけかと思いきや
CBR1100XX・SuperBlackBird(ホンダ) | 164PS(1998年)→152PS |
馬力が落ちているということは、トルクも落ちているということですよ。
何故だと思いますか?
ここで、突然、環境問題の勉強の開始です。
排気ガス規制ってご存知ですか?
車やバイクは、ガソリンや軽油をエンジンのシリンダー内で爆発させ、
そのエネルギーを運動エネルギーに変換させて走っているということは、既に書いています。
これら化石燃料は、燃えると、有害な物質を出します。
炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、二酸化窒素(NO2)などです。
名前くらいは聞いたことがあると思います。
これらは、まとめて温室効果ガスとも呼ばれ、地球温暖化や大気汚染につながります。
温室効果ガスを出すのは車やバイクだけではありませんが、こうした環境への配慮をしていくのは当然の成り行き。
そこで、まず、車の排気ガスをクリーンにする規制が始まりました。
現在(※文章掲載当時)の排気ガス規制は、「平成12年基準」です。
排気ガスに含まれる有害物質が、法律で決められた平成12年の規制値より
25%少ない車に 「良・低排出ガス車(★)」
50%少ない車に 「優・低排出ガス車(★★)」
75%少ない車に 「超・低排出ガス車(★★★)」の認定が受けられ、
更に平成22年(2010年)の新燃費基準をクリアすれば、原則的に新車登録から2年間、自動車税が減額されます。
たとえば、「超・低排出ガス車(★★★)」認定を受けられると、自動車税が50%も減額されるんですよ。
環境の問題に加え、この不況のご時世、車の維持費だってバカになりません。
少しでも車の維持費を安くするために、メーカーは必死に低排出ガス車の開発を進めます。
そして最初に「超・低排出ガス車(★★★)」の認定を受けたのは、日産の「ブルーバード・シルフィ」でした。
この車のセールスコピーは挑戦的だったので、はっきり覚えています。
「シルフィの排気ガスは、都会の空気よりもきれいです」
そんなことがあるかい!と、当時は思ったものでしたが、都会の空気は結構汚れているそうなんです。
排気ガスより汚い空気を吸わされてるのかと思うと、胸がムカつきませんか?
それ以後、各メーカーから低排出ガスの認定車両が次々と発売され、規制に適合できない車は、次々とこの世を去っていきました。
現在の車の排気ガスに含まれる有害物質の量は、
1970年代の車の100分の1までになったと言われています。
日本の排気ガス規制の厳しさは、世界有数だそうです。
で、車のほうが厳しくなる中、バイクの方はどうなっていたのかというと、
見事に放ったらかされていました。
バイクは、車に比べると排気量も小さいし、総台数も車の10分の1しかないので、
排出する有害物質の量は知れているだろうと、ぞんざいに扱われていたんですね。
ところが、車の排気ガスがクリーンになるにつれて、バイクの排気ガスの有害さが無視できなくなってきたのです。
バイクが出す有害物質の量は、いつの間にか、全車両の排出量の2割にも達していたからです。
このままバイクを野放しには出来ないと、ついに
バイクに排気ガス規制がかかったのは、1998年(平成10年)10月のことでした。
(図表)排気ガス規制の適用時期
車種 |
時期 |
|
126〜250cc |
新型車 | 1998.10.1 |
継続生産車 | 1999.9.1 | |
輸入車 | 2000.4.1 | |
51〜125cc |
新型車 | 1999.10.1 |
継続生産車 | 2000.9.1 | |
輸入車 | 2001.4.1 |
↑の日以降に生産されたバイクや、新しく形式認定を受けたバイクは、排気ガス規制の対象になり、
車検が必要なバイクは、車検の際、排気ガスの検査も受けないといけなくなりました。
排気ガスをクリーンにするためには、マフラー内部に、蜂の巣構造の「触媒(キャタライザー)」を付けるのが基本となっています。
触媒が、排気ガス中の有害物質を吸着してくれる仕組みです。
しかし、これにより、排気ガスの抜けが悪くなるので、どうしてもエンジンパワーにロスが発生します。
だから、最初に書いたようにバイクのパワーが軒並み落ちてしまっているのです。
それを回避するために、モデルチェンジの際、どさくさにまぎれてエンジンの排気量を上げて対処したものがあります。
CBR900RR XJR1200 ZRX1100 ZZ−R1100 TDM850 アドレスV100 リード90 アクシス90 |
→ CBR954RR(ホンダ) → XJR1300 (ヤマハ) → ZRX1200 (カワサキ) → ZZ−R1200(カワサキ) → TDM900 (ヤマハ) → アドレス110 (スズキ) → リード100 (ホンダ) → グランドアクシス100(ヤマハ) |
だって、ビッグバイクは排気量が上がっても維持費変わらないし、
下の3車種は、同じ原付2種内での変更だから、税金がちょびっと上がるだけで済むもんね。
だけど、原付はどうするんよ原付は!! 排気量上げたら原付免許や普通免許では乗れなくなるやん!
…声を荒げてしまった…。
また、2サイクルエンジンは、
その性格上、有害物質を大量に発生するので排気ガス規制の基準に合格できず、
合格させるためには多額のコストがかかり、その割に販売台数が伸びないので、
多数のバイクが生産中止に追い込まれました。
NSR、 TZR、 R1−Z、 RGV−Γ(ガンマ)、 CRM、 KDX、 NSR50、 TZM50R、 KSRなどの、
往年の2サイクルの名車は、この時に姿を消すことになります。
ホンダが、2サイクルのバイク全廃して、4サイクルに移行することにしたのも、そのせいです。
原付のDioが2サイクル→4サイクル化したのは、記憶に新しいですよね。
さらに、厳しくなった騒音規制もエンジン音の大きい2サイクルには痛手となりました。
もはや、2サイクルエンジンは風前のともしびです。
淋しいですけど、時代の流れには勝てないんですよ。
2サイクルのパワフルさは捨てがたいですけどね。
今のうちに、乗りまくるしか方法はないのかな。
一部の2サイクルバイクは、プレミアがついて、中古車の値段が高騰しています。
NSRの最終型の中古車は、新車価格より高くなってますよ。