幻の“V8”エンジン
青春時代が夢なんて〜あとからほのぼの想うもの〜♪
青春時代の真ん中は〜道に迷っているばかり〜♪
僕が生まれた翌年に大流行した歌謡曲のサビから今回のコラムはスタートです。
…僕にもそんな時代がありました。
バブル経済がはじけて坂道を転げ落ちるように不景気になっていった時代にあっても、
過去の栄光を引きずっていたあのころに出てきたバブリーなバイクを紹介しようと思います。
1992(平成4)年発売のホンダのNRです。
僕、カタログを持ってますので、それをお見せしながら話を進めましょうか。
当時の技術の全てを惜しげもなくつぎ込み、贅のかぎりをつくした究極のバイクで、300台限定。
価格は当時の市販車としては過去最高額となる520万円!!
この価格は2015年にRC213V−Sが抜くまでトップを誇っていたほどです。(→コラム「ナンバーのついたレーサー」)
NRについて特記すべきことは色々あります。
メーター回りは凝っていまして、飛行機のコックピットみたいに見えます。
当時としては珍しいデジタルスピードメーターが。
タンクにもNRの刻印が。
カタログには透過モデルのポスターまでついてたんですよ。
NRで最も特徴的なのが、そのエンジン。
表記上はV型4気筒750ccですが、実はシリンダーが円筒形ではありません。
2つの半円を直線で繋いだ陸上競技のトラックのような形状をしていて、
楕円ピストンエンジンと呼ばれていました。
1気筒当り バルブは吸気・排気とも4本ずつ、
点火プラグ2本、コネクティングロッド(コンロッド)が2本と、
V型8気筒の隣接する2気筒同士を繋き合わせたスタイルで、事実上のV8エンジンです。
カタログ上は当時の馬力規制のため77PSに抑えられていますが、
実際には超ショートストロークで超高回転・高出力をたたき出したそうです。
何でこんなエンジンを作ったかと言うと、
当時のレース界で主流だった2ストエンジンに4ストで対抗するためだったとかで…。
今でこそ2ストは絶滅危惧種ですが、あのころは2ストが最高潮に達した時期でしたからね。
ちなみに、この楕円ピストンエンジンは、NRだけで、それ以降は採用されていません。
理由は簡単。楕円(略)がレースで使用禁止になった上に、特殊な形状のために製造が難しくコストがかかり過ぎるからです。自滅してるやん(笑)。
そんなバブルバイクが走行しているのを2回見たことがあります。
一度が鈴鹿サーキットでの展示走行。
もう一度が、マスツーリングで岡山へ行った際、参加者が乗ってきてたんです(驚)。
何であのときに写真を撮らせてもらわなかったのか…悔やまれます。
(当時、一般向けのデジカメが出始めたころで、僕はフィルムのカメラしか持ってなく撮れる枚数に限りがあったからかも)
現在ではパーツ供給も終了しています。
また楕円(略)をはじめとして各パーツがオリジナルだったり特殊だったりのため、
走らせて維持するのは困難で、いいところ盆栽扱いらしいです(悲)。
そういうわけで、NRは過去の栄光なのかもしれません。
でも、僕は一度は味わってみたいですね。その幻の“V8”エンジンの走りを…。