お子様ランチとの邂逅(かいこう)
デパート。
この単語には中年になった今でも心躍ります。
どこにでもある、普段着のまま車で乗り付けるショッピングモールではなく、
ちょっとおめかしして お出かけする、デパート。
一通り揃っていますし、その売っているものも格があり、店員さんも上品。
僕が小さいころはショッピングモールなんてありませんでしたので、
デパートへ行くのはウキウキしたものです。比較するのが失礼か。
そのなかでも、最大のお目当ては最上階にある大食堂でした。
ここでお子様ランチを食べる幸せ。
ハンバーグだのエビフライだのデザートだの、大好きなものが一堂に会していて、
チキンライスの上に旗がさしてあるのも嬉しかった。
あの旗、よく持って帰ったなぁ。
いつしかショッピングモールが台頭し カジュアルに買い物できるようになってからは、
デパートとはすっかり疎遠になってしまいました。
そんな僕が再びデパートに足を向けるきっかけとなったのは、
あるイベントがデパートの展示場で開催されたためでした。そうでもなきゃ、デパートへは二度と行くことがなかったかもしれません。
行ったのはコチラのデパート。
今も昔も気品あふれています。
イベントを楽しんだ僕は、買い物に来たわけではないので特に目的もなくフロアを散策し、
高級品の値札にめまいを感じながらも、エスカレーターで上へ上へ。
そして、最上階のエスカレーターを降りた前に、やはりありました。
大きな食堂が、あの時と変わらぬ姿で。
壁面にずらっと並べられた和洋中なんでも揃っているメニューのサンプルに、しばし瞠目。
こちらもやはり変わらぬまま。大好きなものが全部入っているゴキゲンメニュー。
不意に、小学生のとき、担任のY先生が夫婦で「喫茶リプトン」( http://www.lipton-teahouse.jp/ )に入り、
2人してお子様ランチを注文したという話を思い出しました。
何で大の大人がそれを頼んだのかは、
そのサイズが小腹を満たすのにちょうど良かったからだと話してましたね。
その時のウェイトレスは顔色も変えずにお子様ランチを2つテーブルに持ってきてくれたけれど、
テーブルに置くや否やチキンライスの上にさしてあった旗は2本ともウェイトレスに引っこ抜かれたと。
あれ欲しかったのにと笑ってましたね。旗が欲しいだなんて当時の僕と同じですよそれじゃあ。
聞きながら、先生、エエ歳して よぉやるなぁ〜と子ども心に思ったものでした。
その話が僕の脳裏にずーっと残っていたんですよね。
でも、当時のY先生の年齢を越えている僕には、お子様ランチを頼む度胸などミジンもなく…。
先生、恥ずかしがり屋な僕にも注文できるお子様ランチが今はありますよ。
母親に手を引かれて来たあの時と同じく、入口で食券を買い、中へ。
昼食には遅く、夕食には早い中途半端な時間帯。閑散としている広い食堂の一角にどっかと腰掛け、
食券の注文を復唱するウェイトレスの声が店内に響き、周囲の客の目が僕の方を向いた気がして少々赤面。
しばらくしてやって来ました、大人のお子様ランチが。
幅50cmはあろうかという長い洋皿に、エビフライとハンバーグ、チキンライスのオムライスはそのままに、
大人向けにローストビーフもついていました。
いただきます。
永い時を経た邂逅。
皿の上の物は、どれも見慣れた、食べ慣れたものばかりなのに、僕の笑顔の中にはこみ上げるものがあり…。
普段よりゆっくり時間をかけて味を噛みしめながらよばれました。
食べることが大好きで、様々な地で様々なものを食べてきましたけれど、
嬉しさがプラスされたお子様ランチが他より抜きんでてますよ。
食後のデザートはモンブラン風のケーキとアイスクリーム。
皿もしっかり冷やしてあって食べ終わるまでアイスも溶けませんでした。
外ではまず飲まないコーヒーも濃い目でリラックス出来、いい気分をまとって大食堂をあとにしました。
また思い出に浸りたくなったら、ふらっとデパートの最上階へ行こうかな。
(2017.5.6)