僕でも空を飛べるはず




2023年5月某日 えいまる、空を舞う。




滋賀県の湖西側、蓬莱山の山頂に位置する「びわ湖バレイ」を目指した。

冬は関西からアクセスしやすいスキー場として人気があるが、夏も開山している。

スキーで訪れるばかりの僕が初夏のびわ湖バレイを目指したのは、飛びたかったから。




僕が挑戦したのは、「ジップライン」と呼ばれるもの。
スキー場内の各所に張り巡らされたワイヤーを、滑車の付いたハンドルにぶら下がり滑空する。



好天に誘われて妙に運賃の高いロープウェイに乗り、標高1100mの蓬莱山の山頂にあるびわ湖バレイに降り立った。
いつもは雪原の景色が、今は新緑で青々としている。





計画性ゼロなので事前予約推奨にもかかわらず、何の準備もせずにやって来てしまった。
実は、極度の高所恐怖症

やっぱりジップラインなんて、空を飛ぶなんてとても無理。
どうか予約が埋まっていますように…と完全に逃げ腰の僕の視界に入ったのは、



「ジップライン体験しませんか」のボードを持った係員。



思わず尋ねてみると、空き枠があり飛び入り参加OKとの返事。

もう一人のおれが「逃げたらあかん」とゲキを飛ばしてくる。
その瞬間、ここに来た真の目的を思い出し、いっちょ飛んでやるぞと参加申し込みの誓約書にサインをした。



参加の条件は、身長が195cm以下・体重100kg以下。ただそれだけ。
体重制限で引っかかるかと思ったのにギリギリでクリアしてしまい、飛ぶ以外の選択肢はなくなってしまった。




開始時間となり集まったのは僕を入れて9名。うち男性は僕を含めて2名
女性の方が度胸あるんやな〜と思っていたが、始まってしまったら、それが僕の勝手な偏見だったと思い知らされることに。


インストラクターは30代と思われる男性、Tさん。浅黒く日焼けしていてアウトドア一色という風貌。
普段はアルバイトが務めるらしいが、この日は手が不足していたため3年ぶりに引率をするという社員さんだった。


お互い見知らぬ同士を前に開口一番、彼は
「僕たちは一つのチームですから、みんなで助け合って楽しみましょう」
この言葉に一人中年で浮いていた僕は救われた。

他のアトラクションと間違えてジップラインを申し込んでしまった、最も若いだろう女性には、
「他のアトラクションにしていたら後悔した!と思える時間にしてあげますよ」と。
自信あるやん。




まず、みんなで揃ってハーネスを身に着け、そこに命綱と滑空金具を取り付け、メットをかぶる。
空を飛ぶのだから装備は厳重。
背中に付ける命綱は自身で付けられないので隣り合った人と行い、その時点で自然と会話が始まる。
既に僕たちはチームになっていた。

僕だけ標準サイズのハーネスがキツく、腹や太ももに食い込んでボンレスハム状態だったので、
「外国人向け」サイズに替えてもらう。
おれ、ニホン人やのに orz



コースへと移動し、そこで滑空のし方のレクチャーがあり、
Tさんがお手本を見せてくれた。そして「さっそく飛びましょう」、と。



スキーの滑走コースを跨ぐようにして造られたジップラインのコースには 2本のワイヤーが渡してあり、
2人同時に滑空できるようになっている。


「最初の1本だけは男性2人からスタートしましょう」と非情な指令が。
え、おれたちは練習ナシなん?



有無を言わさずスタート台に立たされ、レクチャー通りにワイヤーに滑空金具と命綱を取り付け、
前方を見やる。

スタート台の先に地面はない。

対岸のゴールまでの距離は100m、そしてスキー滑走コースである地面までの高さは約10m
早くも足がすくんでいる。




体重制限ギリギリのデブやけど、ホンマにワイヤー切れへんやろうな?おれが落っこちたらスキー場にクレーターが出来るど。
いや、命綱付けてるんやから落ちるはずがない、おれはやる!



滑空金具のハンドルを握りしめ、Tさんの「3・2・1・ゴー!!」の掛け声とともに床を蹴り、
もう一人の男性と同時に約100kgが空中に飛び出した!



思った以上にスピードが出る!
そこに広がるのは、視界のすべて360度、足元も遮るものがない世界!
人生4周にして、初めて見る景色。



木々の間を抜け、高さ10mの窪みも越え、あっという間に対岸のゴールに無事着地。

おれは飛んだ!飛んだぞー!

たった数秒でになった。
高いところが怖いのなど、忘れ去っていた。




↓この写真を見ただけでは、何が何かわからないだろう






↓ゴール地点から見たシチュエーション




そしてTさんの掛け声とともに次々とこちらへ向かって飛んでくる!
ぶっつけ本番なのにみんな上手い。
先着者が後から飛ぶ人の着地の補助をすることになっていたが、その必要はほとんどなかった。

飛び終えた誰もが笑顔になっている。
はじめはビビっていた若い女の子も、着地するとすごくいい表情をしていた。




2コース目、3コース目と進み、難易度も高くなるにつれて、みんなの仲も高まっていく。
ハンドルから片手を放してポーズをキメたり、両手を放してくるくる回ってみたり。
空を飛ぶことがこんなにも爽快だとは!




そしてラストは眼下に広がる琵琶湖を見ながら飛ぶコース。
そこを2人手をつないで、「スーパーマン飛び」をする。
更につないだ手を空中で組み替えよう
と言う。





全国各地にあるジップラインには、その地それぞれの「飛び方」があるそうで、びわ湖バレイではそのスタイルが「お約束」らしい。



参加者はそれぞれペアになるが、僕を入れて3人が一人での参加。
そのうちの女性2人でペアを組んでもらい、僕はTさんと手をつなぎ、トリを飾ることになった。



全員今日がジップラインが初体験なのに、果たしてそんな難易度の高いことが出来るのやろうか?

疑問を禁じえなかった僕をよそに、
果たしてみんなは、初めてとは思えないほど息の合ったコンビネーションで手を繋ぎかえ飛んでいく。







そして僕も、飛び終わったみんなが見守る中、Tさんと空中ダンスを舞った。
男同士でも琵琶湖と快晴の青空をバックに ええコンビネーション組めたよ!
最後はスーパーマン飛びの格好のまま木くずを敷いた地面に突っ込んで着地し笑いを誘ったが。




あっという間の2時間。もっと空を飛びたかった。この10人のチームでもっと空を飛びたかった。
だけどそれは、次の機会に取っておこうと思う。


インストラクターのベテランTさん、あんたサイコーやわ。
初顔同士のみんなを一つにまとめ上げ、満足へと導くのやから。



(2023.5.15)