クラッチ筋




いちばん最初に取得した免許がバイクの免許だった方なら、僕と同じ気持ちになったかもしれない。



初めてバイクを操った日のことを思い出す。




10代に しがみついていた まだ寒い春の日のこと。

大学受験に見事合格し、バイクの免許を取ることを許された僕は、教習所で初めてのバイクの技能教習に臨んでいた。
対峙したのは、当時大人気だったCB400SFスーパーフォア。色は赤。

教習の最初に全員でバイクの引き起こしをした後、いよいよバイクに跨る
イグニッションをON、セルスターターボタンを押すと低い音を立ててエンジンが始動した。
発進するのに必要なエンジン回転数、2〜3000回転をタコメーターを見ないで保つ練習を繰り返す。



そして、クラッチをいっぱいまで握り、チェンジペダルを踏み込み、ギアをローへ。
アクセルを軽くあおり、先ほど練習したばかりのエンジン回転数を保てたところで、
左手のクラッチレバーをゆっくりと戻す



すると、CB400SFはゆっくりと動き出した。



バイク乗り、えいまるが誕生した瞬間だ。
走行距離はたった1mほどだったが、バイクの虜になるには十分な距離だった。
初めてエンジンつきの乗り物を操った言葉にならない感動は
バイクで15万km以上走った今でも、僕をノスタルジーな気分に浸らせてくれる。



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このように、バイクを操る感動を与えてくれた立役者は、クラッチです。
これが最初からスクーターのようなAT車に乗っていたなら、何の感動もしなかったでしょうし
ここまでバイクにハマることも無かったかもしれませんね。



その後に車の免許を取得に行った技能教習の1時間目はAT車。
ギアをDに入れて、踏んでいたブレーキから足を離したら、勝手に車が動き出し「なんじゃこりゃ」と拍子抜けましたもん。
あまりに簡単に動くから。



2時間目以降はMT車での教習で、そこからもうバイクのときと同様ですわ。

アクセルとクラッチのバランスが上手くいかず、発進ではガクンガクンプスンプスンいわせてたし(笑)、


修了検定のときの坂道発進では、サイドブレーキを外したのにまだクラッチがつながってなくて車がバックし減点20を食らったし(笑)。


大型1種を取ったときは、AT車ばかり乗っていてクラッチの感覚をすっかり忘れてしまっていて、
卒業検定間際まで恥ずかしい思いをしてました、ハイ。



そう、ビギナーにとってクラッチ操作が難関なんですよね。
ことに、エンジンからの動力を徐々にタイヤに伝える「半クラッチ」略して「半クラ」が上手く出来ず、泣かされた人は多いはず。
僕もバイクの免許を取ってから、実際に自分のバイクを手に入れるまでの2ヶ月間ほどで半クラの感覚を忘れてしまい、
初めてのバイク「相棒」の納車時に半クラが出来ず走り出せなかった懐かしい思い出も orz



今となってはクラッチ操作などまるで意識をせず走りますが、たまに鬱陶しいと感じる時だってありますよ。
ゴー・ストップを繰り返す渋滞の時ね。


何度も何度も半クラをしてバイクをゆっくりと走らせるのは、左腕がだるくなってきます。
車種によってはクラッチが重いし。

だから、クラッチを多用せざるを得ないバイク乗りは右腕より左腕のほうが太くなると言います。
それを俗にクラッチ筋と呼ぶとか?!

僕の両腕を見比べてみましたが、特に太さに違いは感じられませんでした。
どうやらまだまだクラッチ操作の厳しさが分かってないようです(笑)。




スポーツ走行をするためには
自分で「操る」喜びが得られることが第一。


なので、その手の乗り物が、クラッチ操作が不要なAT化するなど想像だにしませんでしたわ。

車で言うなら、日産が世界に誇る市販スポーツカー「GT−R」ね。
まさかMT仕様が最初から存在しないなんてと衝撃を隠せなかったものです。



そして、バイクの世界にも…。

ホンダが2010(平成22)年に発売したVFR1200Fというスポーツツアラー
(ちなみにお値段は150万円!!)には
従来のMTとは別に、DCT(Dual Clutch Transmission)と呼ばれる仕様が
あります。

これはクラッチレバーが存在しない完全なるATであり、
それどころか、左足で操作するチェンジペダルすら無く、
手動変速はハンドル根元のボタンで操作



見た目はバイクなのに、なんだかバイクではない別の世界の乗り物みたいに思えますわ。



知ってる人は知ってるとおり、VFR1200Fは僕の「2相棒」の後継モデルですので、
えいまるがコイツに乗り換えて「3相棒」にするのでは?の噂が立ってるかどうか分かりませんが、この場で公言しときます。



買いません(笑)。



と、言うか、何でもかんでも楽チンにしてしまうのはいかがなものか?と思っちゃうんですよ。
便利なものに甘えてしまい、
多少不便でも工夫して使いこなす、乗り越えていくといった
技量や知恵(つまり、頭)を使わずにすむのは、ニンゲンにとっては退化の道ですからね。



そう考えるのはこういう理由からですわ↓





この写真の事故は負傷者が13名も出るなど大事態となり、大きく報道されたので、ご存知の方も多かろうと思います。
しょっちゅう新聞やTVで報道されますよね、この手の事故。
AT車の楽チンさに慣れた結果がコレですわ。



アクセルとブレーキを踏み間違えたこと(いわゆる「ABミス」)が原因ですが、
これはアクセルを踏んだだけで走り出せるAT車特有の事故です。

MT車だと、クラッチの操作が必要なので、ペダルの踏み間違えによる暴走はあり得ません。
このコラムを書いている今日(6月20日)もまた、同様の事故が起こり、負傷者が出たと先ほどのニュースで言ってましたよ。


ああ、公道には漫然と運転してる「走る凶器」がウヨウヨしてるのかと思うと、僕は怖くて外を出歩けません…。



参考資料:毎日新聞2010年6月7日付夕刊