受け継がれし“X”
我が家の大切な足だったシグナスXが突然「卒業」の日を迎えてしまった。
僕が乗っているときにエンジンチェックのランプが点灯。
何事かと思い停車して思い当たりそうなところを見ても異常はなさそう。
とりあえず様子を見るか…と再始動しようとするも、セルモーターが回らない。
それどころかメーターパネルが何も表示せず。
バッテリーが上がったのかと思い、近くのバイク屋へSOSするも、
バッテリーではなく電気系統の異常で応急処置できるものではないと言われてしまう。
仕方なくJAFを呼んで(→コラム「召還魔法は“はいサンキュー”」)、行きつけのバイク屋さんまで搬送。
診てもらうと、レギュレーター(整流器)の故障で、修理すると5万円コース。
さらに、タイヤもブレーキも前後とも限界が近く、そろそろと思っていたドライブベルトの交換も入れると、さらにプラス数万円。
バイク屋さんの一言、
「8年、6万kmも走ったバイクが大きな故障をすると、
修理をしても他の部分が故障して、修理の連鎖になってしまうで」
身に覚えがあった。
今は亡きLEAD50も「2相棒」も、とことんまで乗ったため、晩年は修理三昧やったな…と。
あのときは、また途中で故障するのではとビクビクしながら走ってたな…と。
そのバイク屋さんには、同じ型で別の色のシグナスの中古があった。
それは、店主の身内の方が諸事情により手放したもので、軒下保管で走行距離がたったの2800km。
もちろん傷らしい傷もなくピカピカ。
そして、年度末が直後に迫っていた。
見込みの薄い修理や維持に大金を投じるくらいなら、追い金をして…、
「これに乗り換えたらどうや?」
僕の傍にいつもいるバイクの神様に囁かれた気がした。
ものを大切にするのもいいけれど、物事にはタイミングがあり、それがまさしく今なんや。
僕にしたら割とあっさりと乗り換えることを決めた。
母親の初の原付2種となったシグナス。
近所の中学生に盗難されたこともあったし、母は派手に転倒して大怪我もした。
僕は凍結した橋で人生初のスリップダウンもした。
それらを受け止めた車体は、百戦錬磨の戦士のように傷だらけだった。
自分で納得したからか、晴れ晴れとした気持ちでシグナスを送り出せた。
そして“X”は受け継がれる、黒から銀へ。