「握り」の流儀




バイクの免許を取得し、初めてのバイク「相棒」を手に入れたばかりの僕に
バイク乗りとしての最初の洗礼を浴びせたのは、中学からの友人である「米(仮名)」の父親である。



------



「相棒」納車5日目。


自信がなかったので 夜な夜な車通りの少ない道でバイクで走る練習を積み、
ようやく公道での走りがサマになってきた僕(当時19歳)は、バイクを自慢するべく「米」の家へ遊びに行った。



しばらくすると「米」の父親……親しみを込めて「オッチャン」と呼んどく……が仕事から帰って来た。
彼もバイク乗り(ホンダのスパーダ(250cc)に乗っていたはず)であったため、
「相棒」に強い興味を示し、すぐさま「乗らせてくれ」と僕そっちのけでその辺へ走りに行ってしまった。



そして帰ってきたオッチャンは、僕の服装やライディングフォームをチェックし、
バイクと一緒に購入した派手なノリックレプリカのメットをかぶるのが恥ずかしく、代わりにかぶってきた母親のダサいメットをお世辞で褒めてから、
こう言った。

「米」の家の前で言われたその一言は、今でも脳裏に焼きついている。





「えいまる君、ブレーキやクラッチのレバーを4本握りするのは格好悪いで」





流行や外面ばかり気にしていた多感な19歳は「格好悪い」というフレーズに激しく反応。


「教習所で習ったとおりの走りかたはイケてないのか」と恥ずかしくなり、
どうしたら格好よくなるのか、すぐさまオッチャンに教えを乞うた。



------



多くの賢明なバイク乗りの皆さんは、いわゆる「正しい」レバーの握り方
つまり4本の指でしっかりと握っていると思います。



ところが、オッチャンが教えてくれた握り方は、
クラッチレバー(左手)が2本指で、
ブレーキレバー(右手)に至っては1本指で操作しろ
というではないですか。



曰く、「えいまる君のバイク(「相棒」;VFR400R)はレーサータイプやから、
レバーの握り方もレーサーと同じようにしとかな格好悪い」
と。



ついでに革ツナギ(レーシングスーツ)も買えと言われましたわ(笑)。
あのころのバイクスタイルは「レーサーレプリカ+ツナギ+峠」が残っていたからなぁ。
結局今まで買ったことも着たことも無いですけど。

ちょっと着てみたいけれど(笑)。



でも、指1本とか2本とかでレバーを握ってもキチンと制動するのかいなと 率直な疑問を口にすると、オッチャンは
「クラッチレバーは半分まで握れてたらクラッチは切れてるし、
指の移動距離が短くなるから素早く変速が出来る。
油圧のダブルディスクブレーキなら1本指の操作で十分な制動を得られる」

(→ コラム 「やっぱり W がエエんやもん♪」)



ふーん、そういうものなのかと何も知らない僕はその教えを鵜呑みにし、
早速「米」の家からの帰り道で試してみたのでした。
すると、なかなか良いあんばいだったんですよ。

以降、長きに渡って「レーサー握り」でバイクに乗っていたのでした。



ほかにも、レバーの握り方には、こういう方法があります。あくまでも一例ですが。

  左手(クラッチ) 右手(フロントブレーキ)
1本握り

なし

2本握り
3本握り
4本握り
(正統派)



写真がスクーターのような気がするのは気のせいである。
たまたま家の前に停めていたシグナスをモデルにして写真を撮っただけである。
細かいことは気にしてはいけないのである。




現在の僕は、クラッチが正統派の4本握り、ブレーキが3本握りです。



後に知ることになるのですが、「レーサー握り」は素早い操作をするために
「常にレバーに指がかかっている」状態
になります。


この癖がついてしまった僕は、
4本握りに戻してからでも、無意識のうちに常にレバーに指を掛けていてハンドル操作がおろそかになってしまいました。

特に右手はフロントブレーキとアクセルを操作しますので、
ちょっとした弾みでブレーキをアクセルを同時に操作してしまい、暴走する危険もあります。



なので今は、意識して不用意に指をレバーに掛けないように心がけていますが、
10年以上も続けていた癖がそう簡単に抜けるわけもなく、苦悶の日々が続いています。




格好どうこうではなく、その操作が安全に行えるかどうかで選んでくださいね。
そうでないと、僕のように停まりきれなくて車の横っ腹に突っ込んだりしますよ〜(怖)。