いざゆけ!秘境、広河原



悪友「真宗Jr」こと「T」と原ツーで、滋賀県朽木村を激走した僕たちは、無事に京都市山科区に帰ってきました。


疲れを癒す間も無く、僕にはまだ走る仕事が待ち構えていました。

この日、(2003年)8月24日は、左京区広河原「松上げ」という火祭りが行われ、
それをどーしても見に行きたかったのです。


「火祭り」というと、以前に取り上げました「鞍馬の火祭り」がありますが、両者とも鎮魂の儀式という点で共通しています。

目的地は同じ京都市内ですが、広河原は京都市の最北端。市街地を抜け、鞍馬を通過し、
延々40km余りの距離があります。
しかも行程の3分の2は山道。かなり遠いです。

京都市の中でも、左京区だけは突出して面積が広く、区の南部を除いて、ほとんどが山間部です。


一番近い市街地まで25kmも離れている、世間から隔絶されたこの地(失言)で何が行われているのか…
同じ京都市民として知っておかなくてはいけない!と血が騒いだんですよ。


原ツーから帰宅したのは18時10分。簡単に身支度して19時ちょうど「2相棒」と出発。

「松上げ」の開始は20時。
この時点で遅刻確定(涙)。


市街地を10数km走り、後はずっと山道。
途中の鞍馬までは道は狭いですが、街灯があって人が住んでますし、愛用のPHSが使えますので安心です。
でも、そこから次の集落、花背(はなせ)までは真っ暗。本当に真っ暗なんですよ。
ヘッドライトを消したら闇に包まれます。怖いので消してませんが(笑)。


鞍馬〜花背間は、花背峠を挟んでつづら折りの急坂・ヘアピンが続きます。
そこをヘッドライトの光だけを頼りに走るわけですが、
突然光の輪の中にヘアピンが現われ、当然その先は見えないのでビビる事数回。
道が悪く落石もありますので、神経がいやが上にも尖ります。
もちろん車もほとんど走っていません。何かトラブルが起こっても助けを呼ぶことも出来ません。

これを「恐怖」以外のどういう言葉で表現したらいいのかわかりません。


でも、それを「2相棒」の力強さが振り払ってくれます。もしここを原チャで走れって言われたら、断固絶対猛反対します(笑)。


ま、なんだかんだ走っているあいだに目的地の広河原に20時15分に到着。所要時間は1時間15分。
とても1.5車線の山道を20km以上も走ったとは思えない好タイム(笑)。
たった15分の遅刻で済みました。


ちなみにここまでの公共機関のアクセスは、「京都バス」のみで、
京都市街からの所要時間は何と2時間弱もかかります。遠い!
今日は特別とあって、タクシーや臨時のバスが何台も停まっていました。
車で来てる人も大量にいる様子です。


何せ、街灯が少なく周囲全体が薄暗いため、どのくらいの人がいるのか、皆目見当がつきません。
街中の明るさに慣れてる僕には、目の負担が大きいです。

広河原は、人口が数百人にも満たず高齢者が大半の超・過疎地域です。

(余談ですが、本来なら国から保護を受けられる程の過疎地域なのですが、
「京都市」であるが故に過疎地域に指定されず、非常に不便な地域になっています)



今はそれの何倍もの人がこの暗がりに紛れていて、平均年齢は大きく落ち込んでいるはずです(笑)。


手近な場所に「2相棒」を停め、会場のほうに歩いていきます。まだ始まったばかりの感じです。

堂々と遅刻しておいて、こういう時だけツイてます。
沿道にはたいまつが並び、広河原の集落全体がお祭りムードです。
屋台とかは出てませんが。こんな山奥までテキ屋がわざわざ来るわけが無いか(笑)。


人だかりの出来ている先を見やると、そこそこ面積のある広場があり、
一面に無数のたいまつが立てられ、太鼓の音とともに男たちがそれら1本1本に点火をしている最中でした。
非常に幻想的です。写真ではなく、ぜひナマで見てもらいたいです。
強いてたとえるなら、神聖なキャンプファイヤーってとこかな?
罰あたりそう(笑)。


バイク乗りからカメラ小僧に変身した僕は、会場周辺をウロウロと徘徊し、
シャッターを切りまくります。
でも、シャッターがオートですのできれいに写らない(涙)。


それから、ここではK帯で喋ってる人は一人もいません。
だって、広河原は全てのK帯、PHSが使えないんですもん。
それが、いい雰囲気をブチ壊すことなく静かに祭りを楽しめる理由のひとつだと思いますね。

K帯を高く高く掲げて写真を撮ってる人は多数いましたが、
それを今すぐメールで送ることも出来ない。ははは、ザマァ見ろ!

K帯が使えないと死んじゃう人には、
広河原の松上げを楽しむ資格はありません(笑)。

なんて事をしてる間に、全てのたいまつに灯が点りました。
いよいよ祭りがクライマックスに向かいます。

広場の中央に設えられた、巨大なたいまつに火を灯すのです。
巨大たいまつは、ちょうど玉入れのかごを巨大化させたようなもので、結構な高さがあります。
そこへ男たちが玉入れの要領で火種を投げ入れ、点火させます。


男たちの掛け声と共に、火種が宙を舞います。
でも、男たち、威勢のいい声を出す割に、ひとつも入りません(笑)。
地面に落ちてくる火種に当たらないか心配しますよ。

これが運動会の競技やったら、この男たちのチームは最下位間違いなしです(爆笑)。


モタモタしている間に、さっき点灯したたいまつの火が消え始めてきました。
見物人からは「いい加減に火種を入れんかい」的なムードが漂っていました。
僕も男たちの余りの下手さにうんざりしてきた頃、歓声が上がりました。
ようやく火種が一つ入り、大きな「“玉入れ”たいまつ」が豪快に燃え上がりはじめました。


それが十分に燃えた所で、「玉入れのかご」を根元からのこぎりで切って引き倒します。
考えれば考えるほど、よくわからない儀式です。それが宗教的な儀式の典型と言っちゃえば、それまでですが(笑)。

ゆっくり巨大たいまつが倒れ、あたりに鈍い音と歓声が響きました。

おわった〜!と余韻に浸っている暇はありません。すぐに広河原から脱出です。
狭い道に車が集中するので、モタモタしてると大渋滞に巻き込まれ、帰宅が夜半になってしまうと聞いていました。

時に21時15分。「2相棒」の停めてある所まで一目散に走り、速攻で出発。
他の観客の誰よりも早く広河原を後にしました。


花背付近まで走ってきたとき、不意に空を見上げました。
そこには、3日後に最接近が迫っている火星が、鈍い赤色を放ちながら夜空に浮かんでいました。
しばし暗闇にたたずみ、火星を眺めました。
…美しかった。

自宅までの42kmを行きしより早い1時間5分で走りました。帰宅は22時20分。走行距離は84kmでした。

でも、帰りの渋滞さえなければ、もっと祭りの余韻を楽しみたかったですね。


秘境の地の「松上げ」は見る価値があると思います。
見学に行かれる方は、バイクで行くのが賢明です。経験者語る(笑)。

どーしても車というなら、京都市側と反対の美山町へ逃げるほうがOK。ただし、京都市街まで80kmありますので、覚悟してね。